「湯湯婆」

木枯らしどころか、うっすら雪迄積もりはじめるこの季節。耳が冷たい。いや、痛い。温度的な意味で耳が痛い。フゴフゴとうるさい子豚のような駄犬を散歩しながら、登校する子供たちの耳当てを羨まし気に眺めるいつもの朝。
私は冬が苦手だ。

兎に角、寒いのが苦手だ。
長い間北海道に住んでいながら何を言う。と思われても、苦手なものは苦手な訳で。むしろ何故北海道を定住したんだ我が祖先よ…と言いたい。

太ってるんだから暖かいでしょ。なんて言われるが、違う。表面積が大きいからこそ寒い部分が人より多いのだ。わかっていただきたい。だがそんな私も若い頃はこんなに寒さに弱い人間ではなかった。学生の頃、友人F君の家で5、6人はいただろうか、皆で雑魚寝した際などは当然寝具など人数分もなく、コートやバスタオルを布団がわりに寝たものだ。私もビーズクッションを確保し朝迄快眠できた。飲みかけアクエリアスが凍っていた事に驚愕した2月の事だ。

そんな若かりし頃も遠い過去の事で、今ではホットコーヒーにすがる毎日。そんな訳で、当然寝る時も寒いのは嫌だ。そこで毎年お世話になるのが、「湯湯婆=湯たんぽ」。

妖怪のような字面だが、能力も妖怪のように優秀で、誰しもが一度はお世話になった事があるだろう。最近、新しい湯たんぽを購入しようと、ある店舗で探してみたが全然見つからない…。そんな訳ないだろ、冬間近の北海道だぞ?買い占めか?謎の組織が湯たんぽを買い占めたのか?おのれダークリユニヨン。俺は諦めないぞっ!ブツブツ言いながら探す事10分…やはり見つからない。あの特徴的UFOなようなボディ…。どこだ…。おかしい、無い訳が無いんだ…。おのれダーク…。

結局、店員さんに聞く事に。
すると驚くことにこの店舗では私の求める「あの」湯たんぽは取り扱ってないと。「今は充電式の湯たんぽでとってもエコですよ」と。

おーい、まてまてまて。
よし、落ちつこう。
まぁ時代だ 、21世紀だ。身体を暖めるものが変化するのは当然だ。だが、充電式なら「湯たんぽ」って名乗るなよ「湯」じゃねーじゃん「蓄熱液」じゃん。暖かい「液」は「湯」ではないでしょう。え?お湯を交換しなくてもよくて1回あたり2円くらいのコスト?わかるよ、わかるけどさ。エコってそういう事?そりゃ湯たんぽだってお湯を湧かす為にエネルギーは使うよ、電気かもしれないし、ガスかもしれない。ストーブの上に置いておいたヤカンかもしれない。なんだろ、お湯だからこその暖かさじゃない?その液とやらに同じ暖かさが出せるのかね?温度的にも持続力的にも上回るのかもしれない。でも幼少の頃から共に過ごして来た思い出の暖かさを、親が先に布団に入れてくれていて寝る時に感じたあの幸せの暖かさを、暖かくなった布団の中で冷たい所をみつけて足を入れて気持ちいいってやってたあの思い出を、低温火傷でぶつかり合った事もあったけど、お湯が漏れちゃってホントに漏らしたみたいになった事もあったけど。やっぱり「湯たんぽ」は「湯たんぽ」でなきゃ駄目なんだと思う。

さて、お湯が沸いたようだ。
あなたの足元に湯たんぽあれ。